2/03/2008
www.levi.jp www.lvc.jp

THE ARCHIVE
Nevada Jeans, 1880s Spur Bites, c1890 Homer Campbell/Celebration Jean, 1917 XX, c1879
Project Document Movie Gallery Party Limited

Interview


phofa
今では歴史的な側面においても大変貴重なLEVI’S®の「ARCHIVE」ですが、実際にサンフランシスコでご覧になっていかがでしたか?
菅原
まず、このお話をいただいた直後に、どういう風に撮ろうかいろいろ考えてはみたのですが、最初は“ワークウエアのジーンズ”ということもあって、もう少しハードなイメージがありました。ただ、今回は幸いにも撮影前にARCHIVEに保管されている実物を見せてもらう機会がありました。そこでイメージが一気に変わりました。僕にはその時それがいわゆるジーンズに見えなかった。むしろ印象としては一般的にイメージされる質実剛健なワークウエアというよりも、歳をとったおじいちゃんたちを見ているような気がしてきてね。実際に、これだけの年月を経ても、今でもコットン独特のやわらかさがあって、そしてその穿き込まれた感じが、当たり前ではあるのですが、二つとして同じものがないわけですよね。そんな感じがぼくにはひとつひとつの“顔のシワ”のようにも見えて、しかもそれらがなんとも言えない表情を持っている……。もう、これはどこから見ても“人”そのものだと思ったのです。
phofa
それが表題を「PORTRAITS FROM THE ARCHIVE」とした理由だったんですね。
菅原
そうです。以前に奄美大島でも、民宿の軒先をお借りして、自然光の中でおじいちゃんとおばあちゃんを撮ったことがあるんですが、その時と撮影方法というか、光の感じもとても似ているかもしれません。わかりやすくいうと、“自然光の写真館”という感じでしょうか?
phofa
たしかに、ジーンズの表情もすごく豊かですし、とてもあたたかい印象がありますね。では次に、この「原寸大プラチナプリント」を菅原さんと一緒に制作された久保さんにもお聞きしたいのですが、今回は、なぜプラチナプリントという特殊な方法でプリントをされたのでしょうか?
菅原
今回、“プラチナプリント”という方法を思い立った最大の理由は、その粒状性にあります。一般的な“シルバープリント”に比べて、何といってもプラチナですから、圧倒的に粒子が細かいのです。だからその分、利点を生かすことが出来たならば、もしかしたら驚くほどの描写力を成立させられるのではないかと思ったのです。ただ今回は、“原寸大”で、というのが最初からありましたから、そこでそれが出来るかどうか、というところから久保さんに相談しました。
久保
そうなんです。全紙サイズぐらいまででしたら、何度も経験があるのですが、これは私にとっても初めての挑戦でした。そして実はもうひとつ、菅原さんからリクエストがあったのが、“黒”という色の問題でした。一般的なプラチナプリントは、いわゆる少し茶褐色な感じにものが多いのですが、菅原さんは「黒という色を引き締めるためにもプラチナプリントで、と思っているので、黒いプラチナプリントって出来るのでしょうか?」ということでしたので、私にとっては、そこも新しいチャレンジだったのですね。結局、最終的には、露光機をはじめとしたすべての設備を自分たちで作ることになりましたが、こうやって、おそらく世界最大のプラチナプリントが出来たことは、プリンターとしても、とても大きな経験になりました。
phofa
今回のように、菅原さんと久保さん二人で制作されることは多いのですか?
菅原
そうですね。ここのところはまさに「ケミカルブラザース」という感じで、いい関係が出来ていると思います(笑)。そもそも7,8年前に、久保さんは久保さんで、カメラの世界のデジタル化の波に悩んでいて、何度か相談を受けたのですが、そこはさすが久保さんという感じで、むしろ今までやられてきたアナログの技法をもう一度改めて構築するということを決断されたのです。そして、ぼくはぼくで偶然に湿板写真という古典技法を試してみようとしていて、そんなお互いのタイミングが驚くほど重なっていたこともあって、そこから一緒に制作する機会が増えていますね。
久保
菅原さんとの関係は、写真家とプリンターの関係としてもかなり独特のスタイルなのではないかと思っています。特に湿板写真などは、プリンターにもかかわらず、撮影の現場にいることが出来るわけですから、オーダーを受けて、暗室で作業するといった従来の仕事とはまるで異なります。特に湿板の撮影の時などは、一緒に何週間も奄美に行って撮影を繰り返しました。そして今回は、撮影の現場ではありませんが、菅原さんのアトリエの中で、何人かのスタッフの人々と共にプリント作業をするわけですから、楽しくないわけがありませんよね。もちろん、成功することが出来たからの話なのですが(笑)。
phofa
今回の撮影においては、プラチナプリントで表現することが最善の方法だったんですね。
菅原
そうですね。確かにプラチナプリントというのは、特殊な技法のひとつかもしれませんが、ぼくにとって大切なのは、このことに限ったことではありませんが、そこに必然があるかどうかということなのです。だから、実はその技法のことに注目されることはどうでもよかったりするのです。必然というのは、特に写真の場合は被写体という相手があるわけですから、嘘があってはいけないというか、そんな写真は撮りたくない、作りたくないと思っています。ですので、その方法は、カメラ付き携帯電話であろうが、湿板写真であろうが、プラチナプリントであろうが、何だっていいのです。ちょっと矛盾する話に聞こえてしまうかもしれませんが、そうなるとむしろ余計に、技術というかクオリティーが必要になってくるのです。だからこそ久保さんの存在は、ぼくにとってその部分においても、大きな存在なのです。
久保
私としては、菅原さんのそういった感覚にも共感出来ますし、こうやって関われることをうれしく思っています。しかもそうやって作り上げていったプリントというのは、不思議と最終的には、そうでなくてはならないというところにたどり着くことが出来ます。私はそのためにも新しい技術はもちろんのこと、古い技術も同時に大切にしていきたいと考えています。しかも、それらを混ぜ合わせることで、新しいものが生まれるという事実も、菅原さんとの関係の中で知ることが出来ました。
菅原
とにかく今回は、その久保さんの確かな技術があったおかげで、前代未聞の黒がしっかりと締まったプラチナプリントを作ることが出来ました。そしておもしろいことにその黒のおかげで、むしろグレーの階調がとても豊かに感じてもらうことが出来ますよね。そのことが、今回のこの歴史的なジーンズのプリントには功を奏したのだと思います。