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2007年4月22日
マドハット・カケイさんの芸術 ギャラリイKは次代を担うであろう多くの若手作家が集い、自らの意志で発表活動をしている画廊ですが、毎年幾人かの海外の作家もすばらしい作品を見せてくれます。ちょうど今、クルド人の美術作家マドハット・カケイさんが個展を開催中ですので、ご紹介したいと思います。 カケイさんの絵画は一言でいうならば、モノクローム(白黒ということではなく、単一の色彩という意味で)の抽象絵画ということになりますが、その色彩は独特の存在感をもって観る人に迫まります。キャンバスにペインティングナイフで様々な色のアクリル絵具を幾層も幾層も重ねていき、最終的に拡がる一つの色の周囲には、キャンバスの縁にはみだした絵具がそれぞれの色を垣間見せ、複雑な形をした輪郭をなしています。そのあたかも遥かな山並みに囲まれた平野のような美しい色の拡がり、深い水を覗き込むような眼に見えぬ奥行き、そして人を瞑想へとさそう静けさ… おそらくその色彩のうちには、決して平坦ではない芸術への道を歩くカケイ氏の想いがこめられています。マドハット・カケイ(Madhat Kakei)さんは1954年にイラク北部、石油の町として知られるキルクーク市に生まれました。画家を志してバクダットの美術学校に学んだ後、スペインのマドリッドに留学します。しかしイラクに戻ったカケイさんを待ち受けていたのは、いつ終わるとも知れぬイラン・イラク戦争、そして故郷のクルディスタン - いまだ独立した国を持たないクルドの人びとは民族の誇りをもってそう呼びます - に対するフセイン政権による過酷な弾圧でした。初期のカケイさんの画面には、木版などによる白黒の対比、痛みを思わせる強い線によって人びとの苦悩が刻み込まれています。 1984年、イラク国民であるゆえに徴兵され、激戦地のバスラで明日をも知れぬ命となったカケイさんは「芸術家として生きる」ことを決意して脱走、スウェーデンに亡命して市民権を得ます。そしてブロンマという町にアトリエを構え、作家活動を始めました。カケイさんはまた、マドリッド留学時に友人となった日本人作家のつてで1985年に来日、日本の千葉市郊外にもアトリエを持つようになりました。地元の医師がかつての病院を美術家に提供した共同アトリエです。日本人の人がらに優しさと細やかさを感じ、その文化に愛情を持つカケイさんは、木立や竹林に囲まれた古い木造の二階屋で、ふすまに直接絵を描いたり、竹を割ってその中に絵を描いたりもしています。展覧会も多くの画廊で行い、ギャラリイKでも評論家針生一郎氏の紹介によって、個展を行うようになりました。 このようにしてカケイさんはスウェーデン、日本はもとより、デンマーク、フランス、アメリカと様々な国で旺盛な発表活動を行っていますが、故郷の町にも当局の眼をくぐってしばしば帰還し、爆撃で破壊された建物に絵を描いたり、子供たちに絵を教えたりしてきたそうです。イラク、イラン、トルコという3つのイスラム国家の国境が出会う山岳地帯を中心にそれぞれの国々に属しながらも、クルドの人びとは独自の言語、宗教、文化を持っているそうです。カケイさんのイラクでの名前はマドハット・“アリ”、つまりイスラム教徒の名前でした。日本での展覧会でも最初は“アリ”と名乗っていましたが、あるとき“かけい”という苗字が日本にもあることを嬉しく思ったカケイさんは、クルド古来のファミリーネームを名乗ることにしたそうです。そしてそのころには、様々な色の輝きが、カケイさんの絵を彩るようになっていました。 「クルド人が創ったすばらしい映画があるよ。知っているかい?」ある冬の夜、カケイさんと私は、ビデオ店で借りてきた1本の映画をともに観ました。『YOL』(イルマズ・ギュネイ監督 1982年 邦題『路』)。とても重苦しく、恐ろしく、しかしとても美しい映画でした。厳しい道徳と掟の中で過酷な運命を生きるクルドの人びと。民族の独立と尊厳をかけた終わり無き闘い。その背景には伝統の音楽が流れ、山々は四季の流れの中で様々な色を見せています。「うるのさん、これがクルディスタンね!」身を乗り出すようにしてブラウン管に見入るカケイさんの顔が子供のように輝いていたのを思い出します。 マドハット・カケイさんの絵画は、観る人によって様々な反応を引き起こすでしょう。大地や土壁、草原や空を観るような現実感であったり、記憶と時間の堆積、意識そのもの..... 「カケイさんの色は、何を現しているのですか?」 私の素朴すぎる問いに、カケイさんはこうに答えてくれました。 「希望だね。」 色を塗りながら、多くのことを思い出し、考え、孤独や、悲しみやいろいろなことがよぎるけれど、最後に現したいものは希望なんだ。それが人間にとって一番大切なものだから。そう語ったのです。 そして彼自身、その希望を現実に変え、芸術家として生きていく力強さを持っています。いま彼は故郷クルディスタンの地に美術館を作る計画を着々とすすめています。 皆さんもぜひ、カケイさんの芸術に触れてみてください。 マドハット・カケイ展Madhat Kakei exhibition 開催中 5月2日(水)まで 29日(日)休み 午前11時~午後7時 土曜日/最終日~午後5時 Gallery Kにて 〒104-0061東京都中央区銀座1-9-6第2銀緑ビル3F Tel/Fax.03-3563-4578 galleryk@nifty.com http://homepage3.nifty.com/galleryk |
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