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2007年10月12日
大巻伸嗣の美術活動において最初の大きな飛躍を示したのは、2002年に始まった「ECHO」のシリーズだったと思います。それは東京ワンダーサイト、岡本太郎美術館、資生堂ギャラリーでの展示を経て、いま開催中の愛知県美術館「Cycle and Recycle」展での作品へと続いています。まばゆい光が満ちる空間、白いカーペットに原色の顔料で描かれた花模様、それは人が歩くたびに滲んでいき、しだいに茫洋とした色彩の海へと変わっていく。このときから彼の作品は、画廊であれ、美術館であれ、お店であれ、どこで行われるにせよ「既にある場所に作品が置かれる」のではなく「ある場所が、全く別な場所に生まれ変わる」という形式をとるようになっていきます。今秋も大注目!大巻伸嗣について話そう - その2 - では、どのような場所に成るのかというと、色彩や、形や、光、そしてときには音が混じりあい、何か磁場のような、密度や圧力が高まった空気が観客を包みこむ、とでも言いましょうか。その「空気」はその中で自由に動きまわれるとか、人を“癒す”というような柔らかいものではなく、逆に自分の存在や動き、呼吸すらも意識せざるを得なくなり、観客にある種の緊張を強いるものです。例えば2003年の「Liminal Air」。狭いトンネルのような入口をくぐると現れる空間には、向う側からこちらへと、石膏の造形物が砂地の床すれすれから天井に向けてせりあがりながら迫ってきていて、その奥の暗闇からは断続的な電子音が、背後からはまばゆい光が押し寄せる。いったい何が起きているのか? ここはいったいどこなのか? 真っ白な石膏のフォルムや海辺を思わせる砂地の美しさに不可解さが増します。後になってその造形物が人の輪郭を型どったものであり、巨大な金型を作って、大勢で振り子のように動かして石膏を削りだしたものであることを知りましたが、その制作方法も何か常軌を逸している感があり、凄いことを考え付くものだと思いました。 この「金型で人型を削りだす」という手法は2000年の「AMBIVALENCE」(ギャラリイK)でも使われていて、このときは床から天井まで達するカラフルな柱が林立しましたが、石膏の原形をろくろのように回転させて削り出し、FRPにおこし、人工漆でやはり回転させながら彩色したものでした。「Liminal Air」の場合も「AMBIVALENCE」も、ひとの輪郭をかたどっているのですが、いずれもモノの形はネガで、その外側が人の姿になっています。逆に言えばモノ自体は、人と人の間に拡がる空気を形象化したものなのです。「空気」が形、密度、質量を備え、あるときは極彩色が回転する柱状の物体となり、またあるときは頭上に迫りくる白い物体として現れる・・・つまり「人と人のあいだの空気を彫刻する」・・・このことに大巻伸嗣の表現の核がある、そう言ってしまうのは早計かも知れませんが、彼が人間というものを、その実体的な形を造形することではなく、むしろその姿が消えたところに残るもの、眼に見えない何か、空間に満ちみちたエネルギーのようなものとして表現しようとしているのは確かだと思います。 彼の作品のもう一つの特徴として、空間造形が完璧に出来上がったとしても、作品はまだ完成ではなく、観る人がそこに加わって初めて成立するものだということがあります。その意味は、五感を働かせて空間に触れる「体験」の作品だということもありますが、それ以上に造形自体として、観客が加わった状態で観るべき作品だという気がします。つまり自分以外の他者がその空間に存在しているのを観たほうが、より作品の意味が伝わるということです「AMBIVALENCE」や「Liminal Air」のように人の輪郭を用いた造形が、観客のシルエットと呼応する場合は、その一番分りやすい例となります。また、床全体に鏡とアクリル板が重なったものを敷き詰め、そこに地図の等高線のように重なりつつ拡がる白い線を描き込んだ「MUGEN - FIELD」(2004年、ギャラリイK)も、床に映り込む人びとの姿があっての作品と言えると思います。そして先日の「Cycle and Recycle」展のオープニング。大巻伸嗣はまず最初に子供たちが作品「ECHO」に入っていく時間を設けました。私たちは色鮮やかな顔料で描かれ整然と秩序をもつ花園に初めて子供たちの足跡が印されていくのを周囲から見守っています。そのときギャラリイKスタッフのEさんは大きな感動を覚えたと言います。「大巻君がなぜ作品を作り続けているのか、分かったような気がする」と・・・。おそらく自分が踏み込んでいくことにも増して、子供たちと作品が生み出す関係を観ることが、より深い理解を生み出したのでしょう。 大巻伸嗣の作品は、混沌をむき出して拡げて見せたかのような出発期の作品から、ほぼ10年を経過しつつ、より緻密な形式、美しさと強さを増してきています。が、まだまだ始ったばかり。今また韓国、中国での新作が、このphofa.netの彼のブログでも紹介されてますね。写真で見たところ・・・これはどうなっているのか???・・・実際行ってみなければ分かりません。 さらに来月、金沢21世紀美術館にも登場するという大巻伸嗣作品。期待はますます大です! |
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